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年末に変わったことをするとロクなことにならない、というジンクスが我が家にはあるのですが、1994年の幕開けも今となっては思い出深い、とんだハプニングに見舞われました。
場所はロンドン。大晦日から一月三日までの数日をドイツ以外のどこかで過ごそうと、夫と私はロンドンのとあるB&B(ベッド&ブレックファスト)に宿を取りました。なかなか凄い宿でした。ベッドの脚が壊れ、それを支えるためにベッド下には雑誌が山積みされている、そんなB&Bでした(だってそこしか空き室がなかったんだもん)。 その日私達はほとんど現金を持っていませんでした。ヨーロッパではATMからその国の通貨でお金を引き出せるので、わざわざ大金を持参したり空港で両替する必要がありません。すぐにでも英ポンドを引き出そうと思ったのですが、お腹がものすごく空いていたので「まずは腹ごしらえだ」とレストランで夕食を取りました。 中華料理を堪能し、外に出て街路を1ブロックほど歩いたところで、 夫「あんた、帽子はどうしたの?」 私「あっ。レストランに置いてきちゃった」 まったくも〜と言われながら帽子を取りに再びレストランへ。そんなことをしていたら、お金のことはケロッと忘れてしまった。 カウントダウンはビックベンの前で迎え、寒いけど、とにかく明けましておめでとう!!とすっかりいい気分で地下鉄に乗り、途中乗り換えたときにバッグがないことに気がついた。 私「あれ?私のバッグは?」 夫「え?バッグがない?帽子はあるんだよね。」 私「うん、手に持ってる」 夫「カメラは下げてるよね」 私「うん」 夫「じゃ、乗り換えのときバッグ置き忘れたんだよ。あのさー、あんた一度に3つ以上の物持たない方がいいよ」 慌てて駅の紛失物事務所へ行って見たけど、バッグはどこへ行ったやら。 夫「もー、どうすんの。お財布入ってたんでしょ」と言ったところで、お金を引き出してなかったことを思い出した。「とりあえずお金おろすよ。バッグのことはそれから考えよう」 近くのATMに銀行カードを入れ、数秒が経過。 夫「や、やばいっ!」 カードは1993年12月31日(つまり数時間前)に期限が切れていた。 私「新しいカードは?」 夫「ドイツに置いてきちゃった。あんたのカードはまだ期限だいじょうぶだよね?」 私「だってバッグの中だよ」 夫「えーっ!」 私「お財布だけじゃないよ。パスポートも航空チケットも入ってた」 文無し、身分証明書なし、チケットなし。 夫「早く日本国大使館に電話しろっ!」 ところが元旦で大使館は閉っていました。電話に出たのはイギリス人の守衛さん。「今日は誰もいませんよ〜」 私「緊急なんです。連絡を取る方法はありませんか。お願いします!!」 守「じゃ、伝えときます。折り返し宿の方に電話させますから」 というわけで、B&Bに戻って受付のお兄さんに事情を話すと同情してくれました。大使館から電話があったら教えてね、とお願いして部屋で待機。しかしなかなか電話は来ない。そのうちお腹が空いてきたけど、宿から出られないしお金もないしで、たまたまあった不味いマフィンをぼそぼそと食べる。部屋のエアコンが壊れていて寒いので二人でベッドにもぐり込んでテレビをつけると、やっていたのは赤ちゃんをディンゴに殺されるという映画で、思い切り気が滅入ってしまった。そして電話はなく、とうとう夜が明けた。 私「おはようございます。大使館から電話ありませんでしたよね」 お兄さん「大使館って何のこと?」 彼は何も覚えていないのです。昨日あれだけ同情してくれたというのにどういうことなのか。 私「ですから、バッグを置き忘れて・・・」 お兄さん「え?そうなの。ボクは聞いてなかった」 一体何にすがればよいのだろう。絶望。 少なくとも朝食付きで予約していたことにホッとして、朝食室でトーストを齧りながら、B&Bのお兄さんがトレーを持ってテーブルの間を行ったり来たりするのをぼんやりと眺めていました。青いセーターを着た彼が客の食べ終わったお皿を片付けに台所に入ったと思うと、その3秒後にまた台所から出てきた。ところがお兄さんの青いセーターが白いトレーナーに変わっているではないか。 私「わっ!なにいまの早業!?」 夫「・・・そうだったのか!一卵性双生児だよっ」 笑っている場合ではない。大使館に電話しなければ。 大「はい、日本国大使館です」 私「実はかくかくしかじかで・・・昨日お電話したのですが」 大「聞いてませんねえ。で、失くしたんですね、パスポート。大丈夫ですよ。パスポートなしでも日本へ帰られるようにしてあげますから」 私「エッ、日本へ?いえ、あの、実はドイツへ帰らなければならないんです」 大「できませんよ、そんなこと。身分証明書がないのに外国に入国できますか」 ドイツへ帰るためには、方法は二つしかない。 一 一度日本へ帰って、パスポートを取り直してからドイツへ行く。 二 ロンドンでパスポート発行手続きを取る。 私「二、二にしますっ」 大「そうですか。でも時間かかりますからね。日本の役所に連絡取って個人情報送ってもらうんですが、向こうはお正月だから、三が日の間は無理ですよ」 私「明日の飛行機で帰ることになっていたんです」 大「それは無理ね。予定変更して」 私「はい、でもお金もないんです」 大「少しは貸してあげられますよ」 私「ありがとうございます。いつ貸していただけるでしょうか」 大「今はお正月休みだから大使館が開くのは1月5日の月曜日です。そのときに来てくださればお貸ししますよ」 私「(脂汗)・・・・・・・・」 夫「げーっ!!!5日までどうすれってさ」 私「ドイツ大使館に頼んでみようよ」 夫「あんた日本人でしょ。日本国大使館ができないこと、なんでドイツ大使館ができるの」 私「お願いだよぉ〜。ダメでもともとでやってみようよぉ〜(半泣き)」 ドイツ大使館は開いていました(正月休みなし)。事情を説明すると「すぐにいらっしゃい」。 幸い歩いて行けるところに大使館はありました。 夫「Es ist so und so」 ド「Aha. で、この女性はあなたの奥さんなんですね」 夫「そうです。信じてもらえないかもしれないけど、そうなんです!」 ド「あなたの実家の電話番号は?」 夫「XXX−0000です」 ドイツ大使館の方はおもむろに電話の受話器を取ると、 ド「こちらロンドンドイツ大使館ですが、XXさんはお宅の息子さんですか」 夫の母「はい、そうですが息子が何か?」 ド「息子さん、00という日本女性と結婚されてますか」 母「はい、してます」 ド「それでしたら結構です」 かくして私が夫の妻であることは証明(?)されました。 ド「奥さんにパスポートを発行してあげます。ただし、有効期限は三日間。その間にすみやかにお帰りなさい」 別室でスピード写真を取り、台紙にペタっと貼って、スタンプをバン、バン。 いとも簡単に、私はパスポートを手に入れたのです(お金もかしてもらった)。 さて、日本国大使館に連絡しないと。 私「大変ご心配をおかけしてすみませんでした。ドイツに帰れることになりました」 大「何ですって?」 私「ドイツ大使館にパスポートを発行していただいたんです」 大「そんなことはあり得ない!」 あり得ないって言ったって、あり得たんだもん。 本当にごめんなさい。 でも、私いま、飛行機に乗ります。
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