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高校までは北海道で育った(一年間のアメリカ留学を除く)私ですが、高校卒業と同時に上京してきました。一人娘を平気でアメリカへ送り出しておきながら、父は「東京は危ない。心配だ」と言って、カトリックの女子寮に私を入れました。(私はカトリックではないのですが)
寮に引っ越したのは大学の入学式の数日前でしたが、まだ誰もいませんでした。いえ、正確には、私の他にもう一人の学生が同じ日に入寮してきました。彼女は奄美大島出身。日本の端と端からやって来て出会った私と美奈子さん。たった二人しかいないのですぐに打ち解けて、他の人たちが来るまでの数日、お互いに部屋を行き来していたんですが、話をしていて驚くことがありました。 ダンボールから衣類を出してタンスに入れる作業をしていたときのこと。 「あら、どうしたの。こんな薄い洋服ばかり」彼女が言うんですよね。 私の荷物には薄いブラウスとか半袖のTシャツばかり入っていました。だって、当然でしょ。北海道と違って内地は暑いんですから。 「何をいうのよ。本土は寒いじゃない」 美奈子さんのダンボールを見せてもらうと、オーバーや厚手のセーターでぎっしり。一体どうしたの〜と私は唖然。4月だというのに、手袋やマフラーまで入ってます。 「奄美大島でも手袋って必要なのぉ〜?」と私が大声を出したら、 「もちろん、奄美でも手袋つけるわよ」と。 それを聞いて、再びびっくり。手袋って「つける」ものなんですか? 私、手袋は「履く」ものだと思っていましたから。(爆) ええ。北海道では手袋は「履く」んです。「つける」のはブローチとかじゃないでしょうか。のっけから異文化体験してしまいました。 こんなふうに私の東京生活は始まったのですが、まもなく落ち込むようなことを次々に体験することになったんですよ。というのは、言葉が通じなかったんです。 「私って、日本語と英語のバイリンガルよ〜。うふ」って思っていたのに、どうやらそれは思い込みであったらしいのです。バイリンガルはバイリンガルでも、北海道弁とアメリカ西海岸弁のバイリンガルだったらしい。標準日本語はまだマスターしていなかった。 もちろん、人の言っていることはちゃんと理解できるのですが、こちらが話すと、わかってもらえないことが結構ありました。自分が今まで話していた言葉が方言だったなんて全然知りませんでしたから、「なんで通じないの!?」って不思議で。 「これとそれ、ばくって〜」と言ったら、「は?」と変な顔をされた。 「ばくる」って、「交換する」って言うんですね。 「これ、いたましいから取っておこう」と言ったら、また「え?」 「いたましい」って、「もったいない」って言わなくちゃならないのね。 「これはもう要らないから、なげる」は「これはもう要らないから捨てる」 「目にゴミが入っていずい」は「目にゴミが入って、異物感がある」 まだまだたくさんありますよ。北海道には方言がないなんてよく言われるから、油断してましたね。その後一年くらいで標準語マスターしましたけど、私の母語はやっぱり北海道弁です。現在は埼玉に住んでいるので、なるべく埼玉人らしい話し方をするように努力していますが、北海道の母と電話で話すときが一番ほっとします。子ども達は埼玉弁です。ときどき息子に、「お母さんが家で変な言葉使うから、学校で方言と知らずに使っちゃってみんなに笑われたよー」と文句を言われて、「え?埼玉ではそういうの?」ってことがいまだにあります。 ドイツでは「高地ドイツ語」と呼ばれる標準語を話せることイコール教養がある、という考え方があって、方言丸出しで話す人を「あの人はドイツ語もろくに話せない」と悪口言ったりするようですが、私は方言が好きです。ずっと一つの土地に住み続けるのなら、方言しか話せなくても別に構わない気がするんですが、どうでしょうか。 普段は標準語ないしは埼玉弁で日本語を話している私ですが、どうしても抜けきらない北海道の言葉が二つあります。 一つは「あずましくない」という表現。うちの子ども達は落ち着きがなく、いつもソワソワモゾモゾドタバタとうるさいのですが、そんなとき口に出る言葉は、 あ〜、あずましくないなあ〜 こういうとき、標準語では「落ち着かないな〜」って言うんでしょうか。私には全然しっくりきません。ちなみに、「あずましくない」は夫が最初におぼえた言葉の一つです。 Hey! Ruhig sein! Ihr seid aber azumashikunai! (コラ、静かにしなさい。お前達はあずましくない!) と、いつも子ども達を怒鳴りつけてます。 もう一つは、「こちょばしい」。「くすぐったい」という意味です。こちょばしいと言っても通じないとはわかっているのですが、くすぐられたら咄嗟に「きゃー。くすぐったい。やめてー」と言うことはなぜかできません。どうしても「きゃー。こちょばしい。やめてー」となってしまいます。 夫も、 Nein! Bitte nicht! Kochobashii! と叫んでいます。 この二つの言葉を我が家で確実に定着させることができて、満足です。
ドイツでのアルバイト体験についてあれこれ書いてきましたが、日本でも学生時代にはいろいろアルバイトしていました。私が生まれて初めてアルバイトをしたのは19歳のときです。
仕事内容は翻訳でした。 あれから20年。いまだに翻訳をしたり(しなかったり)してますが、こんなに長い年月が過ぎたのに、翻訳者としてほとんど進歩していないのに自分でも呆れます。 ま、それはおいといて。(懺悔が本記事のテーマではありません) とにかく、初仕事は翻訳でした。仕事をくださったのは、私が高校時代アメリカへ留学したときにハイスクールやホストファミリーを斡旋した留学機関です。大学を卒業するまでずっとこの機関で仕事をさせてもらったのですが、私の仕事は子どもをアメリカへ送り出す日本の親がアメリカのホストファミリーに宛てて書いた手紙を英文にすることでした。「うちの息子(娘)を一年間、よろしくお願いします」というお手紙です。 個人的な手紙なので、ビジネスレターや機械のマニュアルのように難しくありません。女子大生の私にも完全に理解できる内容です。辞書を引くほどの言葉もでてきません。自ら留学経験があるので、事情はよくわかっていました。 だから簡単!と言いたいところなんですが、そうでもなかったんです。 だって、日本人の保護者が子どもについて書く文章って...... 「うちの息子は乱暴で、勉強はちっともせずに遊んでばかりいて困ります。元気で明るいのだけが取り柄でお恥ずかしい。そちらにお世話になりましてもご迷惑をおかけするのではと心配でございますが、よろしくお願いいたします」 とか、 「うちの娘は素直な子ですが、なにぶんウブで甘えん坊で.....」 というようなのがほとんどなんですもん。 最近は日本の親も変わってきたのかもしれませんが、当時はまだ、我が子を卑下して言うのは常識だったようで、「うちの子は愚図で馬鹿で....」式の手紙ばかりでした。それを読んで私は、「う〜む。これは困った」と思った。アメリカでは、親が子どものことを話すときには、卑下するどころか長所のみをアピールしている感じでしたから。 初対面の人にいきなり家族の写真を披露し(いつもお財布に入れて持ち歩いてる)、「うちのマイケルはと〜ってもいい子なんですよ〜」なんてアピールしていました。いや、アメリカ人がみんなそうかどうかは全然わからないのですが、少なくとも私が滞在した田舎町の中産階級の人たちはそうでした。そして、日本からの留学生はたいてい、私が滞在した州やそのお隣の州の田舎町の中産階級の家庭に配置されることになっていました。 ですから、「愚図で馬鹿で」とか「迷惑をかけるがよろしく」というノリで書かれた手紙を受け取ったら、びっくりするに違いないのでした。 そのまんま英文に直訳してしまうと、 「実の親ですらこんなにけなしているのだから、とんでもない子に違いない」 「何故、そんなとんでもない子を私たちのところへ送りつけるのか」 「もしかして、自分たちの手に負えなくなったから、他人に押し付けて厄介払いをしようってんじゃ.....」 と思われるかも。素直に訳したんではトラブルになってしまう。 そう思って、上司に相談したら、 「そこはビアンカちゃんがうまいこと訳しといてよ」 うんにゃー。ムズカしいー。 手紙に書いてないことを英文にするわけにいかないので、内容には忠実に、かつニュアンスはポジティブに。 乱暴 → 元気いっぱい 怠け者 → リラックスした ワガママ → 自分の意見がある 落ち着きがない → アクティブ etc. 「迷惑をおかけすることもあると思いますが」は訳しませんでした。「習慣の違いにより慣れないこともあるかもしれないが、良い経験をさせてもらえたら嬉しい」ぐらいにしておきました。 これが私の異文化橋渡し人としての初めての仕事です。 そうやって毎年、何十名もの高校生をアメリカに送り出すお手伝いをしたんですが、現地ではやっぱりトラブルもありました。ホストファミリーと合わないとか学校が合わないなどで現地のカウンセラーを通じて日本事務所に相談があったり、日本の保護者が苦情を言ってきたり。 こんなことがあったんですよ。ある親が、アメリカから送られてきた娘の手紙を読んで仰天。 「こんなとんでもないホストファミリーにこれ以上、娘を預けておくわけにはいきません!!すぐにファミリーを代えてくださいっ!」 怒り心頭で訴えてきました。一体何があったのかと思ったら、 「娘が自分に与えられた部屋の見取り図を手紙に添えて送ってきたんです。そうしたらなんと!娘は北枕で寝かされているじゃありませんかっ。すぐにベッドの向きを変えてもらうように娘に言ったんですが、聞き入れてもらえなかったって言うんですよ。北枕で寝かせるなんて信じられません。このままでは娘の身が心配です。不幸が起きないうちになんとかしてくださいっ!」 え.......北枕って........ そういうのアメリカ人に通じるわけないよー!! スタッフも困っていました。この手のトラブルを解決するのは私の仕事ではないので傍観していましたが、枕の向きにこだわるこの母親をなだめるの、大変だったみたいですよ。 異文化ってムズカシイ。でも、異文化って面白い。このときそう思いました。 だからいまだにやっているんでしょうか、この仕事。
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